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夏目漱石の妻は占い好きだった~作家・著述にみる占い~

杏砂です。

2016年秋、NHKで
「夏目漱石の妻」(原案・夏目鏡子/松岡譲「漱石の思い出」)
というドラマが放送されていました。
なかなか面白いドラマでした。

漱石役の長谷川博己もはまり役でしたが、
妻・鏡子を演じた尾野真千子の演技はいつもながらのお見事さで、
鏡子はこういう豪快でかつ繊細な女性だったのだろうな、と妙に納得してしまうほどでした。
ついでながら、劇伴も良かったです。

さて、漱石の妻は悪妻だった、と耳にしたことのある人は多いかと思います。
このドラマのなかでも、かなり天真爛漫な様子なので、然もありなんではあります。
が、ソクラテスの妻も悪妻だったと言いますから、一方でもしや、それは夫があまりに哲学的、文学的で、自己中心的だったので、いかに普通でも夫の仕事の邪魔をしているように見えただけ、夫からすれば、そっとしておいてほしいのにうるさいなど、悪妻に見えるのは本当は夫のせいではないか、と考えを致すのは私だけでしょうか。
小難しい、一風変わった夫を持った妻の「宿命」かもしれません。

漱石に焦点が当たることはあっても、妻の鏡子が注目されることはこれまであまりなかったように思います。
ドラマは、鏡子が占いをしているシーンから始まりました。ドラマのなかでは、その占いも、鏡子と漱石の結婚に一役買っています。

鏡子夫人に興味が湧き、
「漱石夫人は占い好き」という本を読んでみました。
漱石夫妻の孫である半藤末利子のエッセイ集です。
ここには、末利子の祖母である漱石の妻・鏡子は、占い好きだったと確かに書いてあります。
『祖母の鏡子から筆子(末利子の母)に受け継がれたものの一つに「迷信担ぎ」というのがある。二人とも度外れた占い好きで、霊感もないのに霊の存在を信じたり、神仏にお縋りしたり、墓参りをしたりするのがあきれるほど好きであった。』

筆子は、鏡子ほどお金は持っていなかったものの、なんでも鏡子のするようにしたそうです。
『かくいう私も二人のこの嗜好をそっくり受け継いだらしく、姉兄、いとこ連の中ではずばぬけて占い好きである。家を建てる時は家相を、越す時は方位を重んじる。』

さらにこう書かれています。
『占いや信仰にのめり込む人はそうせざるを得ない必然性を抱えている場合が多い。鏡子は周期的に漱石を襲う神経衰弱の発作の一番身近な被害者であった。』
『この地獄から這い出したい一心で、こっそりとお札を貼ったり、お祓いをして貰ったり、占いのご宣託に従ったり、墓参りをして先祖にお願いしたりしたのだろう。そして三十九歳の若さで六人の子供を抱えたまま鏡子は未亡人となった。一時は芯から途方に暮れたらしいからその後も神仏や占いを頼りにしたとしても止むを得ないのではなかろうか。』
漱石全集の印税も占いに消えていったそうです。

黒猫の話は有名です。
鏡子は猫嫌いだったそうですが、家に居ついてしまった猫を、出入りのあんま師が「爪の先まで黒い猫は福猫だ」と言うので、大事にした。そのあとは言わずと知れた「吾輩は猫である」の大ヒット。
その猫の十三回忌に、猫を埋めた場所に建立した九重の石塔が、早稲田の漱石公園に立っている、ということです。

この本のあとがきにこうあります。
『まずこの本が売れるようにとの切なる願いを込めつつ、風水好きの友人のアドバイスに従って、カバー地や題字や帯など要所々々に今年と来年のラッキーカラーを配することにした。私も相当な占い好きだなとの認識を新たにした。』

私は、漱石の妻・鏡子が占い好きだったということを、ドラマとこの本で、恥ずかしながら初めて知りました。

「占い」は、一方で胡散臭いとか、騙されてはいけないとか、そんなものに頼るなとか、ときにはバカにされている向きもありますが、そのまた一方では、政治家から作家やスポーツ選手まで、結局「占い好き」はけっこう多いということですね。

そして、
『占いや信仰にのめり込む人はそうせざるを得ない必然性を抱えている場合が多い。』
は、あらゆるスピリチュアルシーンでの箴言になります。



by 7of9voyager | 2017-08-28 07:30 | ドラマ・著述・文化に見るスピリチュアル

杏砂です。占い師です。    占い、霊能、心霊、スピリチュアル、オカルトから宗教、カルト教団まで、真偽・賛否の両面から考察します。占いとの付き合い方、人生との向き合い方、悩みの解決方法、自分を知るということを、読者の皆さまとともに考えていくサイトです。 信じる人、信じない人、両者に贈る提言批評型随想です。お楽しみください。


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